領域概要

本領域の目的

光学と、それによって生み出される多様なイメージング法は、自然科学の発展に必要不可欠な役割を果たしてきました。しかし、現在の光学を以てしても解明・克服できない重要な課題が、光の直進性を乱す散乱・揺らぎと呼ばれる現象であります。波長と粒径で決まる散乱理論は既に確立されている一方、空気や水中、生体などの現実世界に遍く存在する4次元(3次元+時間)の散乱・揺らぎに関しては、今なおそれらを取り扱う包括的な理論や学理が未構築であります。統計モデルによって散乱係数を定義し、数式やシミュレーションを用いた光子伝搬解析によって複雑な経路をたどる光を解析することはできますが、この手法では散乱した光のごく一部の情報しか用いていないため、最先端自然科学への活用は限定的となっています。
本領域では、3次元空間にナノメートルからキロメートルサイズのマルチスケールに遍く存在する散乱・揺らぎ現象を包括的に理解すると共に、克服することを目的とします。そのために、生体から大気まで現実世界の散乱・揺らぎ媒質を伝搬する光の物理量をことごとく計測し、最新の理論と深層学習を駆使して、マルチスケールに存在する散乱・揺らぎ現象を解明すます。さらに、散乱・揺らぎ媒質そのもの、およびその向こうを透視することで、生命科学や天文学などの自然科学、情報通信工学などの工学の諸分野に革新をもたらします。以上の研究の推進により、散乱・揺らぎ現象を取り扱う統一的な融合学術領域として「散乱透視学」の創成が本領域の目標です。

本領域の内容

 本研究領域では、実世界の散乱・揺らぎ媒質と光学系、データ処理までを一体化してとらえ、光学的可視化技術と数理モデリング手法を融合させることで、散乱・揺らぎ場のマルチスケールイメージングに革新をもたらす「散乱透視学」を創成します(図1参照)。具体的には、現実世界のマルチスケール散乱・揺らぎ媒質である生細胞・組織、地表層空気、大気を伝搬する光が受ける影響やそこに含まれる散乱体の特徴・光学特性を詳細に計測する技術を確立するとともに、それらを数理的に解析・モデル化する数理モデリングを行います。これらによって、散乱・揺らぎを包括的に理解するとともに、克服・活用する技術を確立します。そのために3つの研究項目を設置します。研究項目A01:複雑かつ多様な散乱・揺らぎ場の性質を包括的に解明するとともに、それを補正して透視を達成するためのイメージング手法や光学システムに関する物理的基盤研究を担う「物理基盤による散乱透視学」、研究項目A02:散乱・揺らぎ場の本質的理解のための数理モデリングと数理的アプローチに関する数理的基盤研究を担う「数理基盤による散乱透視学」、研究項目A03:実世界における散乱・揺らぎ場における計測と、散乱体とその性質の解明、及び透視手法の有効性を検証する「実問題における散乱透視学」の3つです。研究項目内及び研究項目間連携により革新的学術領域を切り拓きます。

期待される成果と意義

 本領域での研究成果により、3次元空間にナノメートルからキロメートルサイズのマルチスケールに遍く存在する散乱・揺らぎ現象を包括的に解明する融合学術領域「散乱透視学」を確立することができます。これにより散乱・揺らぎを取り除き、内部にある情報を明らかにすることが可能になります。また、散乱・揺らぎそのものを情報として活用することも可能になります。散乱透視学が変革する学術領域は本領域で取り組む生命科学、情報通信工学、天文学に留まりません。マルチスケールに適用可能なため、3次元ナノ材料開発などの物理工学、異常細胞検出や非接触型体調管理などの医科学、インフラ欠陥検査などの保全工学など多岐にわたり、これらの領域で学術変革につながるものと期待できます。

キックオフシンポジウム録画

キックオフシンポジウム・領域説明/領域代表 的場 修(神戸大学)